仰天!インドのメタル・シーンの今 第1回

2018年11月14日 更新 アジアのメタルシーン
仰天!インドのメタル・シーンの今 第1回

インドと言ったらメタルでしょ

「インド=映画と古典音楽とカレー」

あなたはいまだにそんなイメージをお持ちだろうか。

「実はメタルが面白いんだぜ。インドは!」

なんて唐突に言ってみたところで一笑に付されるか、いぶかしがるかのどちらかだろう。
けれども、「経済が急成長して21世紀はインドの時代が来る」などと言われるようになってから久しい。
だとするならば、メタルだって急成長していてもなんら不思議ではないではないか。

……少々強引だろうか。

いや、実はこの10年でインドのメタル・シーンはかなり様変わりしている。

冷やかしで結構。ちょっとだけ覗いていって欲しい。
そこにはスパイスのように複雑でインド哲学のように深遠なメタルの世界が広がっているのだから。

きっかけは王者IRON MAIDEN

2007年3月17日。

この日を境に世界のメタル・ファンたちのインドを見る目が大きく変わった。

インド南部カルナータカ州の州都バンガロール(註1)で、Eddfestと冠されたIRON MAIDENのコンサートが開催されのだ。そしてそれは、インドにおいて初めて海外の超大物メタル・バンドが演奏した記念すべき日でもある。

インド国内はもちろん、近隣諸国からもファンがバンガロールに集結。一説によれば、その数約38,000人。会場内に入れない者も4,000人ほどいたという。ヘヴィ・メタルの歴史を築いた王者の降臨を熱狂をもって歓迎した。そして、彼らが見せた純粋で爆発的な熱量は驚くべき話題となって世界のメタル・ネットワークに伝播していったのである。

この様子は、これまで一般的に紹介されることが少なかったアジアや中東、ブラジルのメタル・シーンを取りあげて大きな話題を呼んだドキュメンタリー映画『グローバル・メタル』でも触れられているのでご覧になった方々も多いだろう。

そして伝説へ

少々細かい話になるが、インドという国は、公用語とされるヒンディー語と準公用語の英語のほかに約20もの認定された言葉を持ち、全体では数百という言語が存在しているとまでいわれる。

宗教も主だったものだけで、ヒンドゥー教、仏教、シク教、ジャイナ教、イスラム教、キリスト教があり、民族もゴンド、インド・アーリア、ドラヴィダ、タミル、コーチン・ユダヤ、ブナイ・メナシェ、ナガなどをはじめ多数存在する。

つまり、多言語、多宗教、多民族国家で文化も多様。さらにそこに身分制度まで加わってまさに混沌としているわけだ。

けれどもそんな状況の中、IRON MAIDENというヘヴィ・メタルの王者の元に、すべての垣根を超えてインド(さらに近隣諸国)のメタル・ファンがひとつになったのだ。

そういう意味でも2007年3月17日という日は後世に語り継がれる記念すべき日なのである。

フェスがある。ワールドクラスのバンドはインドを目指す

そしてその歴史的な日から徐々に世界がインドに注目し、またインドが世界への扉を開いていくことになるのだ。

バンガロール、デリー、ムンバイを中心にRock 'N India、Great Indian Rock、Deccan Rock、Summer Storm Festival、Harley Rock Riders、BIG69といったロック、メタルを中心としたフェスティヴァルがいくつも企画され、AMON AMARTH、TEXTURES、LAMB OF GOD、MESHUGGAH、TESSERACT、MACHINE HEAD、 CARCASS、FLESHGOD APOCALYPSE、SIKTH、MEGADETH、BEHEMOTH、DECAPITATED、SATYRICON、METALLICA、SLAYERなどを招聘してきた。

さらに、南インドの古典音楽が盛んな都市チェンナイで行われているSaarangというカルチュラル・フェスティヴァルでは、ロック・ショウも行われており、国内の有名バンドのみならず、OPETH、HAMMERFALL、ANATHEMA、KARNIVOOL、KATATONIA、VEIL OF MAYAなどがヘッドライナーとして参加している。

Deccan Rock - Fourth Edition (OFFICIAL AFTER MOVIE)

例えば、Deccan Rockの4th Edition。
これは2016年にテランガーナー州ハイデラバードで行われた。

Bangalore Open Air

しかし、このようにいくつも開催されるようになってきたフェスティヴァルの中でもメタル・ファンが注目すべきは、2012年からカルナータカ州バンガロールにて毎年開催されているBangalore Open Airであろう。

これまでに、KREATOR、ICED EARTH、DARK TRANQUILLITY、IHSAHN、ANIMALS AS LEADERS、DESTRUCTION、NAPALM DEATH、VADER、SKULL FISTなどがそのステージに立ってきた。
ちなみに今年予定されている開催日は7月7日。海外からは、OVERKILL、IMMOLATION、ALCEST、NERVECELLが名を連ねている。

さらに世界最大のメタル・フェスとも称されるドイツのWacken Open Airと協力し、本大会出場を賭けたバンド・コンテストW:O:A Metal Battle Indiaも取り仕切っている。

Bangalore Open Air 2015 - After Movie

節目の2010年前後に注目されたバンド

それではインド国内のメタル・シーンはどうだろう。
90年代後半から00年代に結成されたバンドが徐々に成熟、さらには現代的な新世代のバンドが登場してきた時期と、それに呼応するように世界がインドに目を向けてゆく時期が重なり始めるのが2010年前後のように思う。

KRYPTOS

まず、バンガロールのKRYPTOSがセカンド・アルバム『The Ark Of Gemini』をアメリカのOld School Metal Recordsから2008年に発表。後の2013年にはWacken Open Airに出演する。

ヴォーカルが少々邪悪なダミ声ゆえ、ちょっと聴いただけではメロディック・デス・メタルとも捉えられがちだが、彼らの基本はオールド・スクール・メタルなのである。

*音源は『仰天!インドのメタル・シーンの今 第4回』にて紹介。

DEMONIC RESURRECTION

そして、ムンバイを拠点とするシンフォニック・デス・メタル、DemonstealerことSahil Makhija率いるDEMONIC RESURRECTION。

彼らは、デス/ブラック・メタル系レーベルとしてイギリスに拠点を持つ老舗のCandlelight Recordsと2010年に契約を交わし、サード・フル・アルバム『The Return To Darkness』を世界流通させた。

その後すぐに、Inferno Metal Festival(ノルウェイ)、Bloodstock Open Air(イギリス)、Wacken Open Air(ドイツ)などをはじめとする巨大メタル・フェスティヴァルに数多く出演することで、ヨーロッパ圏にインド産メタルの存在を印象づけたのだ。

Demonic Resurrection - The Unrelenting Surge Of Vengeance

AMOGH SYMPHONY

同じくムンバイのマルチ・プレイヤー、Vishal J. Singh率いるAMOGH SYMPHONYは、2010年のセカンド・アルバム『The Quantum Hack Code』で米国人凄腕ドラマーを引き入れ、近未来的超絶テクニカル・メタルを確立。

それは、想像を超えた未知の可能性を秘めるミュージシャンたちがこの国に存在していることを匂わせるには十分すぎるほどのインパクトを持った作品だった。

OSIRIS 1 (Track #2 from the new album "The Quantum Hack Code")

SKYHARBOR

そして、ジェント系プログレッシヴ・メタルからアンビエントなメタルコアを多数抱えるイギリスのBasick Recordsより、2012年にデビュー・アルバム『Blinding White Noise:Illusion And Chaos 』を発表したのが、首都デリーのKeshav Dhar率いるSKYHARBORである。

世界の潮流に引けを取らないモダンなセンスを見せつけただけでなく、ヴォーカルにDaniel Tompkins(TESSERACT)、ギター・ソロではJ-POP界でもお馴染みのMarty Friedman(ex-MEGADETH)がゲスト参加したことも話題となった。

SKYHARBOR - Catharsis (Official HD Audio - Basick Records)

Daniel Tompkins(TESSERACT)が歌い、Marty Friedman(ex-MEGADETH)がギター・ソロを担当した曲。


『仰天!インドのメタル・シーンの今 第2回』とへつづく。




1)2014年11月1日にカルナータカ州の12の都市名が改名された。バンガロールはこれまでの英語表記から、地元の公用語であるカンナダ語のベンガルールとなった。しかし、本文では、改名前と改名後の両時期をまたいだ話題のため、異なった表記では混乱が生じる可能性と、いまだに英語表記が定着していることを考慮してバンガロールで統一した。

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