記事公開日:2015/09/30

 今やヘヴィ・メタルと一言でいっても、かなり様々なスタイルがありますよね。その昔は「ハード・ロックとヘヴィ・メタルはどう違うのか?」なんて議論もありましたが、そんな喧々囂々が微笑ましく思えてくるほど、昨今はこのジャンルも細分化されていく一方です。もちろん、音楽的なカテゴリーは便宜的なものであり、指標の一つでしかありませんから、そのバンドの本質を言い表すものでもありません。
 好きだからこそ、熱く語ってしまう。そんな経験は誰しもあるものでしょう。特にメタル・ファンはそういう傾向は強い気がします。ヘヴィ・メタルであることの美学をバンドに求め、バンド側も誇りを持ってヘヴィ・メタルと向き合う。この純粋な関係性はとても興味深いものですが、ここにヘヴィ・メタルという音楽の本質的な魅力があるのかもしれません。
 その点から言うと、陰陽座は極めて普遍的なヘヴィ・メタルの理念を貫いてきたバンドだと思います。1999年に結成されたときから、“妖怪ヘヴィ・メタル”なる惹句を掲げ(当時は“妖怪ハード・ロック”という言い方もありました)、現在も活躍を続けています。1980年代初頭からのジャパニーズ・メタル・ムーヴメントは沈静化し、大々的にヘヴィ・メタルであることを前面に押し出すことが、必ずしもポジティヴなバンド運営にはつながらなかった時代です。しかし彼らはあえてヘヴィ・メタルの名の下に活動していくことを選んだわけです。そこにこの音楽に対する並々ならぬ愛情があったことは疑いのないところでしょう。
 そこに付加されていた“妖怪”というコンセプトも個性的でした。妖怪とは日本の伝承文化の一つであり、人間の心が生み出した架空の生物……なんてことは改めて説明するまでもないでしょうが、陰陽座は妖怪を媒介にして、人間そのものを歌うことを、バンドとしての一つのテーマにしたわけです。日本の古語をベースにしたこだわりの歌詞、平安装束を思わせるステージ衣装。和洋折衷という言葉がありますが、サウンド面のルーツであるヘヴィ・メタルと和の世界観を巧みに融合させたのが陰陽座でした。
 しかし、この“異形”の新鋭に対し、特に初期は一部で批判的な声も聞かれました。「こんなものはヘヴィ・メタルではない」と。「あんなイロモノはすぐに消える」なんてことを言う人もいたようです。どう捉えるかは十人十色ですし、好みでなければ聴かなければいいのですが、そういった見解のリスナーの多くは、バンドの上辺だけしか見ていなかったように思います。僕の周りにも陰陽座にネガティヴな印象を持つ生粋のメタル・ファンはいました。ところが、そんなことを言っていた彼らが、数年後には陰陽座のファンになっていたのだから面白いものです。「ちゃんと聴いてみたら、素晴らしかった」と(笑)。
 陰陽座の魅力には様々なものがありますが、たとえば曲そのもので言えば、広範なヘヴィ・メタルを継承したスタイルということになるでしょう。メイン・コンポーザーであるリーダーの瞬火(b&vo)が、企画盤を含む全作品をコンプリートするほど敬愛の念を抱くJUDAS PRIESTが、その核にあります。代表曲でもある「焔之鳥〜鳳翼天翔」(2003年発表の『鳳翼麟瞳』に収録)が、名曲「The Hellion〜Electric Eye」へのオマージュであることは、よく知られた逸話です。トリビュート・アルバム『A TRIBUTE TO THE PRIEST』(2002年)で「Beyond The Realms Of Death」をカヴァーしていたことを記憶している人もいるかもしれませんね。
 また、先述した歌詞も陰陽座の特長です。技法的なところで言えば、単に徹底して日本語を遣うことのみならず、意味はもちろん、その音や字面まで入念に考え抜かれており、さらに随所にハッとさせられるレトリックが織り込まれています。その巧みさは読み込めば読み込むほど奥深いのです。以前、「大学時代に陰陽座を知っていたら、卒論は『陰陽座』研究にしたかった」とどこかで書きましたが、辞書や事典を片手に探求したくなる、これほど多彩な広がりを持つ歌詞というものは、紛れもなく唯一無二のパーソナリティでしょう。妖怪そのものであったり、史実を元にした独自のストーリーであったり、自身の揺るぎなき信念を言明するものであったり、喜怒哀楽の描写が見事に綴られています。
 こういった陰陽座の“妖怪ヘヴィ・メタル”はアルバムなどでも十分に堪能できるのですが、その楽しさはライヴの場においてさらなる輝きを増していきます。アンコールを含めて3時間を超えることも珍しくない彼らの公演には、まさに老若男女と言える、驚くほど幅広い年齢層のオーディエンスが集まります。すでに16年のキャリアがありますし、今となっては親子で参加という人も少なくないのかもしれませんが、少なくとも2000年代初頭の段階で、その傾向は定着していたように思います。その客席の光景は、陰陽座が決して時流には与することなく、いかに普遍的な音楽を作り続けてきたかの証のように感じるのです。
 これほど多くの人を魅了する陰陽座のパフォーマンスは、数々のライヴ映像作品としても記録されてきており、現時点での最新の模様が収められた、去る9月9日に同時リリースされたBlu-ray/DVD『風神雷舞』『雷神雷舞』も見応えのある仕上がりとなりました。オリコン・チャートでも週間で5〜6位にランクインしていましたので、音楽系のテレビ番組でパッと目にして驚いた人もいるのではないでしょうか。同作は2014年9月に2枚同時に発表されたアルバム『風神界逅』と『雷神創世』を引っ提げて、それぞれ行われた全国ツアーの千秋楽となる東京ドーム・シティ・ホール公演を完全収録していますが、熱く劇的な彼らのステージが甦ってくる内容です。そして、自ずからすぐにでもまた陰陽座のライヴを観たい衝動に駆られる、そんな禁断症状にも似た中毒性もあります。無論、これは他のライヴ作品にも言えることではあるのですが、アルバムではなく、本作のような映像を“妖怪ヘヴィ・メタル”の入門盤としてみるのもいいと思います。
陰陽座

陰陽座

 個人的にはバンドの始動からほどなくして陰陽座を知り、国内各地のライヴだけでなく、ヨーロッパや台湾での公演にも同行してきましたし、インタビューなども数えきれないぐらい担当してきましたが、メンバーの真摯な姿勢には今でも感心させられます。ファンに対しても誠実であることは、これまでサポートしてきた方々はよくご存じでしょう。そういった人間性も彼らの音楽には少なからず反映されているのではないかと思います。
 クリエイターとしてのポテンシャルの高さは言うまでもありません。すでにフル・アルバムだけでも12枚もの作品を残していますが、そのいずれも充実した内容であるというのは、奇跡的なことではないでしょうか。しかも、楽器をやっていたら、コピーしたくなる楽曲ばかりなんですよね。たとえアグレッシヴなマテリアルだったとしても、キャッチーさを忘れない作り。そこは意識的な創意工夫というよりも、自然にそのような形態になる絶妙なセンスの持ち主であるとも言えますが、陰陽座をキッカケにバンドを始めたという人が多いのも頷けるところです。陰陽座のコピー・バンドだけが集まるイヴェントも各地で開催されているようですね。
 最後に陰陽座の今後の予定ですが、10月21日にバンド始動時から拠点としていた大阪のライヴハウス、西九条ブランニューにて、同所の20周年記念となる特別公演を行うことになっています。予想していた通り、チケットは即完売でした。以降はどうなのかと言うと、現時点では何も公に発表になっている情報はありません。ただし、これまでの流れを考えれば、然るべき時期に発売になる何らかの作品に向けて準備を進めていくのは確かでしょう。瞬火は常に2つ先のアルバムまで(タイトルも含めて)構想しているだけに(「それは本当なのか?」という人もいるでしょうが、僕が知る限り本当です)、今の段階でも準備万端と言える状況にはあると思います。前作&前々作が2枚同時リリースという驚愕の展開でしたから、次回は3枚同時……ということはないそうですが(笑)、必ずや期待を超えるヘヴィ・メタル作品を届けてくれるはずです。
2015年9月30日
土屋京輔/KYOSUKE TSUCHIYA

陰陽座最新音源情報

陰陽座/風神雷舞

陰陽座/風神雷舞

アーティスト/タイトル:陰陽座/風神雷舞
フォーマット:Blu-ray、DVD
レーベル:キング/ネクサス
品番:KIXM-205、KIBM-516~517
価格:6,800円(税抜)、5,800円(税抜)
2015年9月9日発売
陰陽座/雷神雷舞

陰陽座/雷神雷舞

アーティスト/タイトル:陰陽座/雷神雷舞
フォーマット:Blu-ray、DVD
レーベル:キング/ネクサス
品番:KIXM-206、KIBM-518~519
価格:6,800円(税抜)、5,800円(税抜)
2015年9月9日発売

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