2015年10月5日 更新

第3回:疾走するセピア色の哀愁——屍忌蛇/VOLCANOの場合

記事公開日:2015/07/31

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記事公開日:2015/07/31

 ハード・ロックやヘヴィ・メタル・バンドにおいて、ギタリストが花形的存在であるのは、今も昔もそう変わってはいないと思います。LED ZEPPELINのジミー・ペイジだったり、DEEP PURPLEのリッチー・ブラックモアだったり、その後のシーンに影響を与えたプレイヤーは少なくありません。
 ところが、単に「上手い」と言われるギタリストも素晴らしいのですが、さらに個性が溢れたプレイを聴かせる人となると、意外にもそう多くはないという現実もあります。そこが楽器の難しさでもあり、面白さでもあるでしょう。実際のところ、個性というのは誰しも持っているものだと思うのです。しかし、それが聴き手にわかりやすく伝わるレベルかどうかというと、なかなかその域に達するまではいきません。「あの人は凄い!」と広く称賛されるプレイヤーには、たいていそういった素養が備わっている気がします。
 なぜそういった違いが生まれてくるのか、理由は一概には言えませんが、こんなことを考えるときに思い出されるのが、UFOに加入した頃のマイケル・シェンカーの逸話です。10代後半にドイツから単身でイギリスに渡り、英会話もままならず、孤独と向き合い、アルコールの問題も抱えながら音楽活動を続けた……というエピソードです。あの憂いのあるフレーズの根源は、もちろん、それ以前の生い立ちまで遡らなければ本当のところはわかりませんが、当時の精神状態をちょっと想像してみても、そんな日々からくる心持ちが彼のギター・プレイに表れているとの評には、頷けるものがあります。
 日本にも名ギタリストと呼ばれる人たちは様々いますし、敏腕陣も個々に取り上げたいですが、今回は去る7月15日にアルバム『MELT』をリリースしたVOLCANOを率いる屍忌蛇(SHE-JA)について、いろいろと触れていきます。
 僕が彼を知ったのは、ご多分に漏れず、GARGOYLEの初期作品群。ヘヴィ・メタルが基盤にありながら、決して形骸化したスタイルには陥らない、それまで耳にしたことがないような個性的な楽曲は、ヴィジュアル的な華やかさ以上にインパクトがあったんですね。メンバーそれぞれの持ち味が融合して一つ一つの楽曲は生まれるわけですが、屍忌蛇のギター・プレイや作曲能力は、アルバムを重ねるごとに評価を高めていきました。
 屍忌蛇は高校卒業後、大学へ進学することを名目に生まれ育った高知を離れて大阪へ。進学はご家族の希望だったそうですが、彼の頭の中にあったのは、本格的な音楽活動を始めることのみ。なぜ東京ではなかったのかと言えば、「あの頃はメタルと言えば大阪だったでしょ」と振り返る屍忌蛇。1980年代のジャパニーズ・メタル・ムーヴメントをリアルタイムで体験していない人に説明すると、当時はEARTHSHAKER、44MAGNUM、MARINO、RAJAS、X-RAY等々、関西から続々と若手バンドがデビューを果たしていったのです。LOUDNESSにしてもメンバーは大阪出身ですしね。そんな刺激的な状況を目の当たりにしていた少年が大阪を目指したのは、自然の成り行きでした。
 そしてGARGOYLEの活動で頭角を現したものの、メジャー・デビュー直後の1993年に脱退。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだったバンドから自ら離れるというのは、常識的には信じられない行為ではありますが、得てして個性的なミュージシャンというのはそういうものなのでしょう。その後しばらくは表立った活動はほとんどなかったものの、1997年にアニメタルに参加。バンドの人気の高まりと共に、彼が注目される機会は従来以上に増していきました。  1998年にはアルバム『STAND PROUD!〜ALL FOR HEAVY METAL』をリリース。往年の名ヘヴィ・メタル・チューンをカヴァーする企画作品で、どのマテリアルも聴き応えがあります。その中で異色だったのが「Longing/Love」。原曲はジョージ・ウィンストンの有名なピアノ・インストゥルメンタルで、これを屍忌蛇流のドラマティックなヘヴィ・メタルへと仕上げたのです。後の作品群を耳にしたときにも改めて感じるのですが、僕はこの楽曲に彼の本質がよく表れているように思うんですよね。彼のギターについて、“疾走するセピア色の哀愁”といった言葉がしばしば用いられますが、このキャッチ・フレーズを目にするようになったのも、この頃からだった気がします。


STAND PROUD!〜ALL FOR HEAVY ...

STAND PROUD!〜ALL FOR HEAVY METAL

01. Assaut Attack (MSG)
  Vo. 森川之雄、Ba. 柴田直人、Ds. 大内貴雄
02. Fast As A Shark (ACCEPT)
  Vo. NOV、Ba. TOSHI、Ds. KATSUJI
03. We Rock (DIO)
  Vo. 坂本英三、Ba. MASAKI、Ds. KATSUJI
04. Black Out (SCORPIONS)
  Vo. 小野正利、Ba. MASAKI、Ds. SHINKI
05. Cast Away Your Chains (ELECTRIC SUN)
  Vo. 二井原実、Ba. 柴田直人、Ds. 本間大嗣
06. Far Beyond The Sun (YNGWIE MALMSTEEN)
  Ba. AKIRA、Ds. KATSUJI、Key. 厚見玲衣
07. EMPTY ROOM (GARY MOORE)
  Vo. 森川之雄、Ba. 柴田直人、Ds. 大内貴雄、Key. 三柴理
08. THUNDER AND LIGHTNING (THIN LIZZY)
  Vo. HIYORI、Ba. AKIRA、Ds. KATSUJI、Key. 厚見玲衣
09. THIS IS WAR (VANDENBERG)
  Vo. 坂本英三、Ba. 柴田直人、Ds. 本間大嗣
10. EXCITER (JUDAS PRIEST)
  Vo. 小野正利、Ba. TOSHI、Ds. KATSUJI
11. JET TO JET (ALCATRAZZ)
  Vo. 森川之雄、Ba. MASAKI、Ds. KATSUJI、Key. 高浜祐輔
12. KILL THE KING - BARK AT THE MOON - FREEWHEEL BURNING - LIGHTS OUT - ACES HIGH
  (RAINBOW - OZZY OSBOURNE - JUDAS PRIEST - UFO - IRON MAIDEN)
  Vo. 坂本英三、Ba. AKIRA、Ds. KATSUJI、
13. LONGING / LOVE (GEORGE WINSTON)
  Ba. MASAKI、Ds. KATSUJI、Key. 三柴理
14. WARRIOR (RIOT)
  Vo. 坂本英三、Ba. MASAKI、Ds. 本間大嗣.
 2000年にはVOLCANOを始動。欧州などでもリリースされたデビュー・アルバム『violent』は、日本のヘヴィ・メタル史に残る名盤と推挙する声も多いでしょう。いろんな注目ポイントはありますが、今でも新鮮なのは、他にない個性的な楽曲なんですよね。先に挙げた『STAND PROUD!』でも彼のルーツは明らかながら、先人たちが紡いできたような典型的なヘヴィ・メタルのフォーマットには収まらない。VOLCANOの音楽性は「○○みたいなバンド」とは説明しづらいわけです。思い返すと、やはりGARGOYLE時代からそうなんですね。
 なぜこのような楽曲が生み出せるのか? 本人にとってはあくまでも自然なことですから、そこに理由などないのですが、根底の部分で「AIONのローディを務めていたこと」が関係しているかもしれないと屍忌蛇は話していました。AIONがいかに衝撃的だったのかは、たとえばLUNA SEAのメンバーも『LUNATIC FEST.』に伴う昨今のインタビューなどで語っていましたが、結局のところ、「いかに自分たちならではの音を出すか」という姿勢であり、その取り組みの積み重ねが形となっているということなのでしょう。
 VOLCANOの最新作『MELT』は素晴らしい仕上がりとなりました。あるCDショップでは「店内でアルバムを流すたびに売れていく」そうですが、それも納得の強力な内容です。僕はリリース前に屍忌蛇から試聴盤を直接手渡されたのですが、聴いた途端に出てきた言葉は「感無量」でした。これは彼との個人的な関係もあるゆえですが、極めて簡単に言えば、近年の屍忌蛇の作品にはなかったポジティヴさが感じられたからなんですね。無論、この数年間のアルバムなども相応の魅力を持ってはいるんです。充分に聴くに値しますので、ぜひ手に入れてみて欲しいですが、その一方で僕が思い続けていたのは、「屍忌蛇の魅力はこんなものじゃないはずだ」ということ。そんな感情を払拭してくれたのが『MELT』でした。
VOLCANO / MELT

VOLCANO / MELT

アーティスト/タイトル:VOLCANO/MELT
フォーマット:CD
レーベル:METALLIC CORE
品番:MC-007
価格:2,700円(税抜)
2015年7月15日発売

<収録曲>
01. KAMIKAZE
02. Super Whole Stone
03. Deep In Rain 
04. The Mother Earth
05. Tokyo Panic
06. Aim, Shoot, No, Kill
07. Fight War Field
08. Buster
09. Die Number Nine
10. Fire Sky~Another World ~
11. Fire Sky~Hero of this story~
12. Perish
13. Melt
 発売日当日に会った屍忌蛇は「リリースが待ち遠しかったですよ。単なる酔っぱらいだと思われてるでしょうから(笑)、これを聴いてもらって『どうや!』と」と笑っていました。確かに彼のお酒にまつわる武勇伝(?)は枚挙に暇がありません。でも、この発言にある新作に対する自信は、聴けば理解できるはずです。アグレッシヴでメロディアス。音楽性はこれまでと基本的には変わっていません。攻撃的なマテリアルを多めに配したのも、現在のバンドの勢いを体現したかったからのようです。ただ、何か新たな領域に踏み入れた感触もあるんですね。デモの制作時から、従来以上に入念に作り込んだという制作過程も少なからず影響はしているでしょうし、本作に賭ける他のメンバーの気概も大いに貢献していると思います。VOLCANOの正統な進化が表現された、そんな印象です。
 言わずもがな、“疾走するセピア色の哀愁”たる叙情的なメロディ、ギター・フレーズも健在です。「高知から大阪に行くとき、ギター1本だけを持ってフェリーに乗ったんです。船が港から離れていくときの光景は、今でもよく覚えているんですよね」。屍忌蛇はそんなことも話していました。輝かしき理想を胸に秘めた期待感、それと共に迫ってくるたった一人で故郷を離れる寂寥感。同じような経験はせずとも、その気持ちは想像に難くないでしょう。この当時の心理が、表現者としての屍忌蛇のモチベーションやインスピレーションの一つになっているのではないか……そんな思いすら抱くのが彼の音楽なのです。『MELT』のエンディングに配された「Melt」で奏でられるアコースティック・ギターの調べを聴き終えたとき、きっと多くの人の胸には、それぞれが歩んできた人生への思いが去来するのではないかと思います。
「僕は最近、『今からやぞ!』ってよく言うてるじゃないですか。でもね、ファンの人たちからもいろんな感想をもらうんですけど、僕の音楽で癒されるという人がいてくれれば、それだけでいいんですよ」(屍忌蛇)
VOLCANO

VOLCANO

【Vocal】NOV
【Guitar】屍忌蛇
【Bass】AKIRA
【Drums】SHUN
2015年7月31日
土屋京輔/KYOSUKE TSUCHIYA

VOLCANO

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土屋京輔 土屋京輔