2015年10月5日 更新

第六回:成し遂げた満足感に安堵して晩餐の卓へ帰る。それこそが幸福。

記事公開日:2015/05/19

768 view お気に入り 0
記事公開日:2015/05/19

お気づきの方もいらっしゃると思いますが、今回のサブタイトル、パクリです。
オリジナルは、「自分の仕事を愛し、その日の仕事を完全に成し遂げて、満足したと軽い気持ちで晩餐の卓に帰れる人が、最も幸福な人である」という、アメリカの百貨店王ジョン・ワナメーカーの言葉です。
砕けた感じで言うと、「仕事終わったぜ~!家に帰って晩飯を食うぞ!あ~幸せ」ということなのでしょう。
私の思い描いている「幸福像」はまさにコレ。
当たり前のことを当たり前に出来ることって、幸せなのだとつくづく思うのです。
平凡かもしれませんが。
さて、先月のことですが、話題の映画「セッション」の試写会にお誘いいただき、見に行って参りました。
音楽がお好きな方なら、この作品のことを気にかけている方も多少いらっしゃると思いますが、今年…いや、去年?のアカデミー賞の色々な部門にノミネートされて、色々な賞を獲得した注目作です(雑)。
原題は、「Whiplash」といいます。
皆さんがご存じの“Whiplash”と言えば、METALLICAの曲だと思いますが、直訳すると「1.鞭のしなり、2.ムチ打ち」とのことで、実にスラッシュメタルらしいタイトルです。
そのものズバリ、WHIPLASHというスラッシュメタルバンドもいましたね。
この映画はスラッシュメタルではなく、ジャズの世界が舞台となっています。
トレーラーなどでも分かる程度に中身を説明しますと、才能あるジャズ・ミュージシャンの発掘に勤しむ音大の先生が、あるドラマーの学生を見つけ出し、そいつをあの手この手で追い込みまくった上、ギッタンギッタンにシゴき倒し、一流の演奏家に育て上げようとするお話です。
スパルタをイメージさせる「鞭を打つ」という行為と、ドラムのスティックさばき、ドラマーが陥りやすい疾患など、映画に関する様々な要素が含まれている上に、劇中でジャズのスタンダード・ナンバーとして演奏されている曲のタイトルでもあり、“Whiplash”というたった一単語が背負い込むには少々重過ぎるほどの意味を担っています。
ここまでお誂え向きのタイトルであるにも関わらず、「セッション」なんつー邦題を付けてしまったのは何故なのでしょうか。
あっ!もしかして、スラッシュメタルの映画だと勘違いさせるのを防ぐ為?!
トイズファクトリーからデビューした当時のMr.CHILDRENが、一部メタルファンから「新しいメタルバンドがデビューした」と間違われてしまった時のような危機を回避したかったのだとしたら…合点がいきますね!
それはさておき。
先生のシゴキとそれに応える生徒のぶつかり合いが凄過ぎる!とのことで、この映画はよく「青春映画」、「スポ根」と解説されています。
それぞれ納得出来るのですが、私の場合、まず脳内を過ぎったのは「ホラー」でした。
というのも、シゴかれる主人公のニーマン君、才能があるだけあって、ちょいちょい調子に乗ってしまったり、中二病をこじらせてしまったりしてしまうんですね~(淀川長治口調で)。そんな時、大抵手痛いうっちゃりを受けることになるのですが、話が進むに連れてだんだん「あ~また調子こいちゃったよ~絶対痛い目合うよ~」と、傍目にも分かるようになってしまうのです。
つまり、ホラー映画を見ていて「そんな暗いところでイチャイチャしてたら鉈持ったホッケーマスクが来ちゃうって!」とか「この太ったイヤなヤツ、一番初めにチェーンソーに殺されるよ~!」とか、惨劇の前触れを感じてハラハラするような気持ちあるでしょ?アレになってしまったのです。
お気づきのことかと思いますが、ホラー映画も然して詳しくはないので、なんとなくで語っています。
主人公へ思いを馳せながらも、やはり目を奪われたのはJ・Kシモンズ演じる先生、フレッチャーの存在です。
偉大な演奏家を育てる為に、怒鳴り、汚い言葉を浴びせ、暴力も辞さず、大の大人でもションベン垂れ流して恐怖に慄くほど窮追します。
しかもそれは、自分がステージで脚光を浴びる為ではなく、よき演奏家を育てたいというその一心での行動なのです。
「才能ある誰かに夢を託し、そのサポートをしたい」とか「この才腕を埋もれさせたくない」という気持ちは、自分の好きなバンドを世に広めたいという動機で音楽ライターになった私としては大いに共感するところ。
だがしか~し!!人様の息子さんをあんなにもメタメタに傷つけるというその手段は、どうしたって受け入れられないのです。
音楽って、こんなにイヤな思いをさせないとやれないもんなの?大好きな音楽を嫌いになるレベルじゃん!音楽が嫌いになりそうなほど傷つけて、色んなものを犠牲にしてまで勝ち取る栄誉って、何なワケ?!
音楽に限らず芸術というのは、作り手にそれなりの苦悩があることは分かっています。
それでも、「好きだからやっているのだ」という基本ありきであって欲しいし、且つ、自身や家族、大切な人が心身ともに健康で、衣食足りてこそ楽しめるものだと、私は信じています。そう、「帰る食卓」があってこそ、なのです。
と、いうのは超現実的な意見。
映画としては、立ち向かう負けん気の強い主人公を期待してしまうものです。
ニーマンはフレッチャー先生の煽りに乗っかり、また、自身の伸び代を確信し、恋人や家族を捨ててまでドラムの練習に没頭。期待通り、血と汗と涙の日々を送りながら、物語を盛り上げてくれます。そしてクライマックスは…おっと、ここから先は内緒。よろしければ、劇場へ足をお運びください。
代わりに、いきなりですが「まれ」の話をします。NHKの朝ドラです。
あ、でもドラマ自体はさほど面白くないので、特別おススメという訳ではありません。
なんとなく、習慣で見ているだけなんです。ヤングメタラー諸君、君んちのお母さんもそうでしょ?
「まれ」は、ヒロインの名前です。
ダメな夢追い人であった父ちゃんを反面教師とし、安定した生活を求めて念願の役所勤めをするまれ。しかし、幼い頃に憧れたパティシエの夢を忘れられず、能登から横浜に出てきて修行をする(←今ココ)、というお話です。
放送が始まった頃、「“真面目にコツコツ”が口癖の、今までの朝ドラとは一線を画すヒロイン!」という煽りをよく目にしたのですが、とんでもない!
彼女は私が思う朝ドラヒロインのど真ん中でした。
どこが違うんじゃい!と突っ込みたいことこの上なし。
【朝ドラヒロインの特徴】※星川調べおよびイメージ
☆持ち前の明るさで困難を乗り越える
☆どこへいっても話題の中心
☆何にでも首を突っ込み、過ぎたお節介を焼く
☆人の懐にグイグイ入ってくる
☆ちょっと図々しくておっちょこちょい
☆最初はヒロインを嫌っていた人も、だんだんその人柄に惹かれていく
☆夢があり、その才能に長けている上、努力も惜しまない
☆何故かモテモテ
とにかく、ちょっぴり面倒くさそうなのと、すべてにおいて正反対な自分と比較して(特に最後)劣等感で満タンになりそうなので、現実にいたら私はあんまり仲良くしたくないな~というタイプです。イイ子だとは思うんですけどね~(免罪符)。
ヒロインが困難を乗り越え、夢に向かって邁進する健気な姿で、朝の忙しい時間帯に視聴者へ元気を与えたい!みたいな意図もあるのでしょうか。
私のように、習慣的に朝ドラを見ている世の奥様方も、それを期待しているのかもしれません。
そういう意味では、「ヨッ!待ってました!朝ドラのお家芸!!」というヒロインなのです、まれは。
「セッション」も「まれ」も、あくまで、架空の話だからこそ「行け!難事に立ち向かうのだ!」とか「負けるな!意地を見せてみろ!頑張れ!」と松岡修造のように応援出来ますが、実際にニーマンやまれのような人が身近にいたら…もっと言えば、彼らが自分の大切な人だったら、「そんなに無理してまでやることか?」、「楽しめないなら、辞めた方がいいよ!」、「精一杯やったんだから、今辞めても誰も責めたりしないよ」、「役所の方が安定してるって!」、「将来の年金のこととか考えてる?」、「能登にいなさいよ!横浜なんて、なんかありそうで実は何にもないから!」(←これは川崎出身者である己の僻みも込み)と、無茶して頑張ろうとする彼らを全力で止めるでしょう。
大切な人が心を痛めたり、生活に困ったり、健康を害したりしているところを、見たくないからです。
でもね、当たり前なんですけど、いるんですよ現実にも。
音楽やその他の芸術、スポーツ、仕事、恋愛と、熱を向ける方向は様々ですが、その他すべてのことを犠牲にし、心身をすり減らしてでも一つのことに打ち込む人っていうのが、確かにいるのです。
彼らは、ニーマンやまれのように、周囲が止める声さえも反動にし、目標に向かって突き進みます。
「人生は舞台、あなたは主役」と言ったのは故・ポール牧ですが、主役になれる、というか「主役的に生きることが出来る」素質というのは、誰にでも備わっているわけではありません。
主役として人生の舞台を踏めるのは、まさに彼らのような、映画やドラマの主人公的ポテンシャルを秘めた人だけだ、と私は思っています。
一方、何事も程々が一番!がポリシーの私みたいなモンは、突っ走る主人公を「やれやれ」と見つめる脇役というポジションが性に合っていると思いますし、そんな過不足ない今の人生を、とても気に入っています。
私の人生には、私の思う「幸せ」が、ちゃんと存在しているからです。
しかし反面、寝食も忘れ、なりふり構わず好きなことに打ち込む彼らの姿が輝いて見えることもあり、「主人公」に嫉妬心が芽生えないかと言えば、嘘になります。
そして、苦しみながらも好きなことに人生を賭けるその姿を見つめながら「果たして、人の幸せって何なのだろうか」と、永遠に答えが出るはずもない疑問に苛まれることも、時としてあるのです。
21 件

関連する記事 こんな記事も人気です♪

第十一回:生誕三十八周年記念稿

第十一回:生誕三十八周年記念稿

記事公開日:2015/10/19
星川絵里子 | 1,595 view
SURVIVE インタビュー

SURVIVE インタビュー

記事公開日:2015/09/11 - 新作「HUMAN MISERY」のインタビュー。話し手にNEMO氏(Vocal/Guitar)とSHINTAROU氏(Drum)。
星川絵里子 | 5,177 view
第八回:真夏の恐怖物語

第八回:真夏の恐怖物語

記事公開日:2015/07/22
星川絵里子 | 532 view

この記事のキーワード

この記事のキュレーター

星川絵里子 星川絵里子